名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)839号 判決 1971年4月10日
控訴人
渡辺三千夫
外六名
右控訴人ら代理人
安藤巌
外六八名
右控訴人白井治良代理人
恒川雅光
外三名
被控訴人
社団法人全日本検数協会
右代表者理事
岡田良雄
右代理人
高橋正蔵
外五名
主文
原判決中控訴人有本清に関する部分を取り消す。
名古屋地方裁判所が同庁昭和四一年(ヨ)第一二九号地位保全等仮処分事件につき昭和四一年三月一一日付でなした仮処分決定のうち、控訴人有本清の申請を一部認容した部分は、これを認可する。
その余の控訴人らの控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人有本清と被控訴人の間に生じた部分は被控訴人の負担とし、その余の控訴人らと被控訴人の間に生じた部分は同控訴人らの負担とする。
第一、二項および前項に限り、仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の本件異議申立を却下する。名古屋地方裁判所が同庁昭和四一年(ヨ)第一二九号地位保全等仮処分事件につき昭和四一年三月三一日付でなした仮処分決定を認可する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。なお原審申請人浅井正幸は当審において本件仮処分申請を取り下げた。<以下略>
理由
一、本件解雇の意思表示の成立等について
(一) 被控訴人が名古屋市その他全国数都市に支部を置き貨物の検数、検量および貨物事故の調査、立会等の業務を行なう社団法人であること、昭和四〇年一一月当時において、控訴人らは被控訴人の従業員であり、また全日本港湾労働組合(以下全港湾と略称する)の組合員であつて、かつ全港湾東海地方名古屋支部全検分会(以下単に分会または全検分会と略称する)の執行委員であり、控訴人渡辺は全港湾名古屋支部の副委員長、同有本は全検分会の分会長、同立野は同副分会長、同白井は分会書記長の任にあつたものであること、被控訴人が控訴人らに対しそれぞれ昭和四一年一月七日付内容証明郵便をもつて、控訴人らにつき被控訴人就業規則第三九条第五号所定の「協会業務の正常な運営を妨げたとき」および同条第七号所定の「前各号の一に準ずる事由があるとき」に該当する事実が存したことを理由として、同日付で解雇する旨の意思表示をしたこと、ならびに被控訴人が右就業規則の条項に該当すると主張するところは、控訴人らが分会執行委員として、(イ)昭和四〇年一一月一三日勤務時間中に控訴人の許諾なく分会執行委員会を開催し、(ロ)同日午後五時以後分会員に対し時間外就労拒否を指導し、(ハ)同年同月一四日分会員に対し全面的就労拒否を指導して就労を拒否させ、もつて被控訴人の業務を妨害したというにあることは、いずれも当事者間に争いがなく、また弁論の全趣旨によれば右各内容証明郵便はいずれも右発送後間もなく控訴人らに到達したことを認めることができる。
(二) なお、<証拠>によれば、全港湾は港湾労働者が個人加盟する、いわゆる産業別単一労働組合であつて、その下部組織として東海地方名古屋支部、更にその下部組織として全検分会が組織されていること、ならびに分会は名古屋、四日市、清水の各港で勤務する被控訴人名古屋支部の従業員中課長以上の職制の地位にある者を除くその余の従業員で組織され、組合員の団結の力により全港湾の宣言綱領を実現し、労働者の政治的、社会的、文化的地位の向上をはかることを目的とし、経費は組合費およびその他の雑収入をもつてまかなうこと等を定めた規約を設け、更に右規約においては分会に分会長、副分会長および書記長各一名と執行委員若干名を置き分会長は分会を統轄し代表すること、右役員をもつて執行機関たる執行委員会を構成すること、最高意思決定機関として毎年一回定期大会を開く大会を設け、組合員五名につき一名の割合で選出される代議員および右役員で構成すること、役員および代議員は組合員の直接無記名投票によつて選出されること、各会議の議決は多数決によること、分会が同盟罷業を行なおうとするときは組合員の直接無記名投票の二分の一以上の賛成できめること等が定められ、労働組合法上団体交渉権および争議権を有する労働組合としての適格を具え、従前より分会員独自の労働条件等に関し被控訴人と団体交渉を行なつていた事実を認めることができ、<証拠判断省略>
二、全検分会執行委員会の開催について
(一) 昭和四〇年一一月一三日分会執行委員会が開催されたことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、次の諸事実を一応認めることができる。<証拠判断省略>
(1) 昭和四〇年一一月当時施行されていた被控訴人の就業規則および就業規則附属規定により、従業員が休務しようとするときはその理由の如何を問わず原則として前日午後五時迄に所定の様式により届出で、所属長の許可を受けなければならず、右の手続を怠つた場合はこれを無届として取扱うこと(規則二一条)、就業時間中に組合運動、政治運動、示威運動、集会その他被控訴人の業務に関係のない事由で就業しないときは、これを欠勤、遅刻または早退として取扱うが、労働組合と協定した場合は、不当労働行為となるものを除きその協定によること(同二三条)、無届で欠勤または休務した場合は一日につき月額制基準内賃金(本給、家族手当、役付手当)の二五分の一を減額し、理由を付して届出て欠勤または休務した場合には右賃金の五〇分の一を減額すること(附属規定七条)、ならびに正当の理由なしに屡々遅刻、早退、欠勤をした者は懲戒処分として減給または譴責に処すること(規則六一条二号)と定められている。
(2) ところで全港湾本部は全港湾東海地方本部に対し昭和四〇年一一月八日「一三日の抗議行動は時間外拒否を厳重に行ない、時間外のないところでは一時間の職場内にくい込む抗議集会を行なえ。」との指令を発し、同地方本部は全港湾東海地方名古屋支部に対し同年同月一二日電報で「日韓強行採決の暴挙に対し厳重抗議するとともに、既定方針どおり戦え。」との指示を発し、更に同支部は全検部会(全検分会と、訴外日本貨物検数協会の従業員が組織する日検分会との合同部会)に対し同日「冬季一時金要求貫徹、不当処分反対、日韓条約反対のため、全港湾中央指令にもとづき、左記のとおり指令する。記。一一月一三日全組合員は残業を拒否し、県民会議の統一行動に参加せよ。」との指令を発した。
(3) そこで全検分会の分会長である控訴人有本は同年同月一三日の就業時間中に分会執行委員会を招集し右指令に対する対策を討議・決定する必要を生じたので、全検分会分会長有本清名義で被控訴人名古屋支部長(理事)岡田良雄宛「控訴人渡辺、同清水、同藤戸、原審申請人浅井、控訴人平手および申請外嶺本義秀は同月一三日一日間組合業務のため欠勤する旨の同月一二日付届書を作成し、同日午後三時頃これを被控訴人名古屋支部総務課に持参・提出したところ、後刻同課課長心得海田浩明の命を受けた同課佐門係長から電話で「一三日は業務多忙の上運動会等のため出勤扱いにして休暇を与えた者が数名居り、執行委員会を開催することを認めることはできないから、他の日と振替えるように」との趣旨の指示を受けたが、他日を期し得ないことを理由として直ちに右の指示を拒否した。これに対し被控訴人は右六名は一三日欠勤するときは業務拒否扱いとする旨を通告した。
なお、控訴人有本、同立野および原審申請人浅井は同月一三日は運動会等のための特別有給休暇を与えられており、また控訴人白井は同月九日頃同月一三日を年次有給休暇とすることを届出ていた。
(4) 昭和三三年九月二五日被控訴人と全日本検数労働組合との間に締結された「就業時間中の組合活動に関する取扱」と題する協定により、執行委員会は原則として月三回を超えない範囲で行ない、事前に被控訴人側担当職と協議の上、できる限り作業に支障のない時期および方法をとることとし、前日までに支部長に願い出るものとすること、ならびに右の場合は待機扱いとするが、各支部において一人一箇月の回数を協議の上定めうること(執行委員会のほか、拡大執行委員会、評議員会、代議員会、上部団体および関連団体の会議等への出席も待機扱いとされることによる)等がとりきめられたが、右協定は被控訴人が昭和三五年八月三一日一方的に破棄するところとなり、全検分会を含めて被控訴人と団体交渉権を有する各労働組合は、同年一一月二二日右協定が同年一一月末日限り失効することを確認したため、全検分会と被控訴人との間においては同年一二月一日以降は右の問題に関しては無協約状態となり、前記就業規則の規定のみが適用されることとなつた。しかし、その後前記欠勤届の拒否までの間、分会長による分会役員の組合業務のための欠勤届が拒否された事例はなく、僅かに被控訴人の要請により欠勤日を変更したことおよび欠勤者を一名減じたことが各一例あつたにすぎない。
(二) 右の諸事実によれば、労使間に被控訴人の主張するように就業時間中の組合活動についてできるだけ被控訴人の業務に支障を来たさない時期、方法をもつて行なう旨の慣行が存したことはないというべきである。また分会役員が分会長の招集に応じ上部団体からの指令を討議するため執行委員会を開催するのは正当な組合活動というべきであつて、被控訴人が業務の遂行上右開催期日における組合役員の欠勤を承認できないときはこれを拒否し就業規則に従つて無届欠勤とすれば足るのであつて、かかる一回限りの無届欠勤は就業規則上減給または譴責の理由ともなしえず、まして被控訴人の主張する解雇の理由とはなしえないことが明らかである。
(三) なお、被控訴人は前記執行委員会は日韓条約粉砕のための時間外就労拒否のストライキを決定、実行することを目的として開催された旨主張するが、前記認定のとおり分会執行委員会は単なる上意下達機関にすぎないものではなく、分会大会の意思決定に従い分会員の労働権、生活権を擁護するために設置された執行機関であるから、執行委員会においては先ず上部団体の指令の内容が正当であるか否か、指令に応ずることが分会員の意思に合致すると認められるか否かを検討すべきであつて、指令の内容が違法、不当であり、または分会員の総意に合致しないと認めるときは、これを拒否する義務を負うものと解すべきである。したがつて、上部団体より受けた指令の内容が如何に違法であるとしても、これを討議するために執行委員会を招集し、これに応じて出席し、執行委員会の定足数を充足してこれを開催すること自体はなんら違法なことではないと言わなければならない。
したがつて控訴人らが前記執行委員会を開催したことが解雇事由にあたる旨の被控訴人の主張は理由がない。
三、時間外就労拒否について
(一) 控訴人有本を除くその余の控訴人らが昭和四〇年一一月一三日就業時間中に開催された分会執行委員会に出席したことは当事者間に争いがなく、<証拠>疏乙第一号証の三(控訴人らは原審記録中の同号証の写を当審において正当な写と差替えることに異議を申し立てるが、民事訴訟法上控訴審裁判所は一審判決の判断の当否を逐一判断するものではなく、当事者双方の一、二審を通ずる弁論に対しあらためて判断を示すのであるから、右の差替えにより控訴人はなんらの不利益をも受けるものではなく、右の異議は理由がない)<証拠>を総合すると次の諸事実を一応認めることができる。
(1) 昭和四〇年六月当時被控訴人名古屋支部従業員の一部は全検分会の組合員であり、他の一部は申請外全日検労働組合名古屋の組合員であり、更に他の一部はいずれの組合にも属しておらず、右いずれの組合員数も過半数に達していなかつたが、右二組合の組合員数を合算すると優に過半数を占めていたところ、被控訴人は同年五月二四日右全日検労組名古屋の代表者たる執行委員長太田賢生と、また同年六月六日全検分会組合員の代表者たる全港湾名古屋支部執行委員長佐藤清一と、それぞれ同年四月一日付書面による時間外労働・休日労働に関する協定を締結すると同時に、同年五月二四日付書面による賃金協定および昭和四〇年度賃金協定に関する覚書を締結、交換した上、同年六月九日所轄労働基準監督署長に対し労働基準法第三六条に基づく協定(三六協定)の届出をした。
右時間外労働・休日労働に関する協定書には、同条に基づく協定である旨の前文に続き「時間外および休日労働が今日港湾の実状であり常態であることに鑑み、検数およびその他の業務がその必要を生じたときは同法第三二条、第三五条の各規定にかかわらず、時間外および休日労働に従事する。ただし従業員の健康および著しく福祉を害するものについては、この限りでない」旨ならびに該協定の有効期間を昭和四一年三月三一日までと定める旨の記載が存し、右賃金協定書には一箇月の時間外勤務時間を五〇時間とし、それに満たない者に対しては不足時間に応じ時間外保障手当を支給する旨、および時間外労働に対する報酬額に関する規定が設けられ、また右覚書には各支部において時間外労働協定を締結した後は理由なく時間外勤務を拒否することができない旨、および理由なく時間外勤務を拒否することが屡々に及んだ場合には時間外保障手当の支給を停止することができる旨が記載されている。
(2) 同年一一月一三日午前中に開催された前記執行委会には控訴人有本を除く控訴人ら全員が出席し前記指令につき討議した結果、右指令に従い同日午後五時の時間外就労予定者は同時刻以後の残業を拒否すること、ならびに全分会員は同時刻集合の上午後六時名古屋市東別院広場で開かれる愛知県民会議主催の日韓条約批准阻止中央集会および引続き行なわれるデモに参加することを斗争方針として決定し、組合員(前記四日市、清水の各港湾勤務者を除く)の投票を求めた結果投票者の89.6%の賛成を得たので、組合掲示板に前記全港湾名古屋支部よりの指令を記載した掲示と並べて日韓条約粉砕のスト権が確立した旨を掲示し、控訴人白井および同立野は同日前記海田課長心得に対し「時間外及び休日労働に関する協定破棄通告書(一三日午後五時以降一四日始業時まで)」、を提出したが、同人から理由を付してほしいと要請されたので、更に全港湾名古屋支部執行委員長名義の「冬季一時金要求、不当処分撤回、日韓条約批准反対」の三要求を理由として記載した時間外拒否通告書を提出し、また控訴人有本を除く控訴人らは手分けをして各分会員にスト指令のビラを配布した上、同日午後五時過ぎ、参集した組合員を指揮して名古屋市内のデモに参加した。
(3) その結果同日時間外就労をすべき者五九名中四二名が時間外就労を拒否したので、被控訴人は急拠管理職者を動員し、主席検数員一八名およびハッチ検数員数名分の穴埋めをし、ハッチ検数員五名分については相手方(被控訴人が荷主から検数の依頼を受けたときは船主。船主から検数の依頼を受けたときは荷主。)の依頼する他の検数業者にその検数を依頼し(通称ダブリ検数)、その他のハッチ検数員の不足分は「かけもち」や非組合員の協力を得て急場をしのいだが、作業上混乱を生じ、後日得意先から抗議を受け、信用を失墜した。
(4) 分会執行委員会は右時間外就労拒否(残業スト)の目的として前記のとおり冬季一時金、不当解雇撤回、日韓条約粉砕の三要求の貫徹を掲げたが、当時冬季一時金については被控訴人本部へ申し入れをしただけで、未だ被控訴人の回答を得ていなかつたから、斗争に突入する段階に至つていなかつたものであり、不当解雇反対の斗争はすでに繰返されていて、右の時点においてあらためて争議に持ち込む必要性はなく、前記のとおり全港湾本部からの指令は日韓条約粉砕のみを目的とし、分会内部でのスト賛否投票も同一目的についてのみ実施され、時間外就労拒否の主要目的は名古屋市内で開催される日韓条約批准阻止のための統一行動に参加することにあつたと認められ、分会幹部による前記時間外就労拒否通告書の提出も被控訴人の職制に促されて右三要求を記載したにとどまるから、これをもつて被控訴人に三事項につき要求または抗議をしたものと認めることはできず、その他本件全疏明によつても分会が当日被控訴人に対し右三事項につき(冬季一時金、不当解雇反対のみならず、日韓条約粉砕についても)要求または抗議をした事実を認めえない。したがつて右時間外就労拒否斗争は専ら政府および国会に対し日韓条約批准反対の意思を表明し、これを阻止するための示威に参加することを目的としてなされたものと認めるほかない。
(二) 三六協定の拘束力について
控訴人らは労働基準法第三六条に基づき労使間に締結される協定は本来使用者に対し免責的効果を付与するのみであつて、労働者に対し時間外就労を義務づける拘束力を有するものではない旨主張する。しかし、本件においては労使間に前記各協定が締結されたほか前記覚書が交換され、従業員は昭和四〇年度においては右各協定に基づく時間外就労の義務を負うことを承諾したのであるから、右の主張は採用の限りでない。
(三) 本件三六協定の効力について
前記認定のとおり一事業場たる被控訴人名古屋支部の労働者が二個の労働組合の組合員と未組織労働者とに三分され、各組合の組合員数がいずれも全労働者の過半数を占めるに至つていないが、両組合の組合員数を合算すれば過半数を占める場合において、使用者が各組合の代表者と相次いで同一期間内に適用すべき同一内容の時間外労働に関する協定を締結したときは、労働基準法第三六条所定の協定に関する労働者側当事者に関する要件を充足したものと解すべきである。
また同条所定の協定は必ずしも一個の協定書により締結される必要はなく、数個の協定書を合一して労働基準法施行規則一六条所定の要件を充足するときは、右各法条に基づく有効な協定が存すると解するのを相当とするところ、前記認定の時間外労働・休日労働に関する協定および賃金協定中の各協定条項を併せてみるときは、右規則第一六条所定要件中労働者数に関する事項を除きその余の要件を充足していると解することができ、右規則中労働者数に関する事項については、右各協定の趣旨上右各協定が被控訴人名古屋支部の全従業員に効力を及ぼすものとして締結されたことは明らかであり、その数は各協定当事者において了知していたものと認めるべきであるから、右各協定書が労働者数に関する記載のみを欠くことを理由としてそのいわゆる三六協定としての効力を否定すべきではない。
(四) 政治ストの効力について
前記認定のとおり、本件時間外就労拒否斗争は名を冬季一時金獲得、不当解雇反対および日韓条約粉砕に藉りながら、実は日韓条約反対の意思を政府、国会に対して表明することのみを目的とした争議行為であると認められる。憲法第二八条および労働組合法の諸条項は、使用者対被用者という関係に立つ者の間において経済上の弱者である労働者の地位を向上させることを目的として労働基本権を保障しており、また現実の政治・経済・社会機構のもとにおいて労働者がその経済的地位の向上を図るにあたつては、単に対使用者との交渉においてのみこれを求めても十分に目的を達成し難いことがあるから、労働組合が右の目的をより十分に達成するための手段としてその目的達成に必要な政治活動や社会運動を行なうことを妨げられるものではない。しかしながら、右は使用者に対する関係においては労働契約上の義務と相対的に判断することを要し、使用者によつては如何ともなし難い政治的要求を掲げて争議行為、特に就労拒否をすることは、少なくとも使用者に対する関係において右諸規定の保障する争議行為としての正当性の限界をこえるものと言わざるを得ない(最高裁昭和四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九一三頁参照)。この点に関する控訴人らの主張は当裁判所の採用し難いところである。また控訴人らは一時的政治ストは憲法第二一条の保障する表現の自由の行使として正当性を有する旨主張するが、同条は労働者が政治的見解を表明するために使用者に損害を及ぼす手段を用いることまでをも保障した規定であると解する余地はない。
(五) 違法争議に対する組合役員の責任について
労働争議が労働組合法の保障を受けえない違法なものであるときは、これに参加した組合員の組合活動としての正当性は否定され、参画した組合員は執行機関を構成する役員であると否とを問わず、違法な行動につき民事上の責任を追及されるべきである。この点は民法上、法人が意思表示をする場合はもちろん、理事が不法行為をする場合とも場合を異にするから、控訴人らの民法を論拠とする法人責任論および機関責任論は妥当でない。
前記認定のとおり、控訴人有本を除くその余の控訴人らは違法な時間外就労拒否を決議し、執行し、指揮したものであつて、積極的に不法行為を共謀し率先して遂行したのであるから、被控訴人に対し個人として就業規則上の責任を負うべく、しかもその情状は他の一般組合員に比して重いと言わなければならない。
四、一一月一四日の就労拒否について
(一) <証拠>によれば、次の諸事実を一応認めることができる。
(1) 昭和四〇年一一月一一日名古屋港停泊中の甲春丸のラフツマン(いかだ師)職務を命ぜられていた全検分会組合員村山明は、指定出勤時刻である午前七時三〇分を二〇分経過しても業務部現業所に出勤しなかつたので、これ以上待てば八時発の通船に乗り遅れると判断した同人の上司は急拠他の作業員を甲春丸に派遣する措置をとり、七時五五分頃出勤した右村山に対しては他に振り替える職場がないため、同人を無届欠勤扱いとした。
右の処置は港湾労働の特殊性からみても、また本件労使間の就業規則、昭和四〇年度賃金協定ならびに全検分会、全日検名古屋および被控訴人名古屋支部の各幹部(分会からは控訴人渡辺がほか一名と共に出席した)が昭和三九年七月八日東京において同年度名古屋支部細目協定を締結する際遅刻に対する取扱につき口頭で合意した内容にも適合するものであつた。当時被控訴人大阪支部においてはその地域的特殊性を考慮し、早朝出勤者に対しては一時間以内の遅刻は欠勤扱いとしない旨の支部細目協定が締結されていたが、被控訴人名古屋支部においては、かかる合意は右昭和三九年七月八日の合意および昭和四〇年七月一日締結された名古屋支部細目協定においては成立せず、遅刻か欠勤かは具体的状況に応じ現業所の管理職者が認定する取扱いが行なわれており、全検分会が右取扱の不当を主張して被控訴人に団体交渉を求めたこともなかつた。
(2) 控訴人藤戸は、昭和四〇年一一月一四日(日曜日)は諏訪春丸の検数補助作業員として配置されていたが、同日指定出勤時刻である午前七時三〇分を五分経過しても現業所に出勤せず、諏訪春丸に向う通船は七時四〇分に発進することとなつていたため、海上第三課係長鈴木進は作業計画を変更し急拠他の作業員を同控訴人の代替要員として配置につかせた上、同控訴人を他の配置につかせるか欠勤扱いとするかにつき上司の認定を待つため、現業所内の配置板上諏訪春丸の配置要員として掲げられていた同控訴人の名札を配置未決定者の名札を掲げる場所に掛け替えた。
(3) 七時三七分頃出勤し、配置板上自己の名札が掛け替えられているのを認めた控訴人藤戸は、すでに無届欠勤と認定されたものと早合点し、鈴木係長に対し「おれはどうなるんだ。今日仕事をさせん気か。」と詰め寄つたので、同係長は配置を変更した理由を説明した上、欠勤扱いになるかどうかはこれから配置状況を調べた上返事をするから待機室で待つよう指示した。しかし同控訴人は、「そんな馬鹿な、仕事につけろ。五分位遅れて無欠(無届欠勤)だなんて誰が決めた。今直ぐ説明しろ。」と大声でどなり、同係長からその態度を注意されると益々激昂し、「馬鹿野郎、早く仕事につけろ。」「畜生、仕事につけなかつたらただでは置かんぞ。」とわめき、更に原審申請人浅井正幸を伴い小林芳治配置調整課長の許へ行き、こもごも「俺はたつた六分しか遅刻していないのに仕事につけないとは何事だ。」「藤戸さんを仕事につけない理由を云え。」等と大声を発した。騒ぎを聞いて控訴人清水、同白井および同平手も、他の分会組合員らと共に右小林、鈴木両名および制止に入つた太繩武指導課長に対し口ぐちに抗議と面罵を反覆し、更に控訴人白井は配置板前において、集つた組合員らに対し「就労する意思のある考を遅刻したからと云つて仕事につけないとは何事だ。協会が説明しないうちは仕事に行けるか。皆そうだろう。」と演説し、他方控訴人立野および前記浅井、平手らは待機室で作業準備中の従業員を多数連れ出して「こんなことで仕事に行けるか。仕事に行くな。」等と煽動したため、現業所内は全く混乱状態となり、業務は完全に中断された。
(4) 控訴人渡辺は同日七時四五分の指定出勤時刻に遅刻し七時五三分頃現業所に出勤し、自己の配置板上の名札が予め配置された高武丸からはずされて配置未決定の場所に掛け替えられているのを確認した上、右の混乱状態を見て直ちに前記の他の役員らに同調したのみならず、「こんなことで仕事ができるか。全員仕事を放棄して引揚げだ。馬鹿らしくて仕事に行けるか。」とあじり、前記各控訴人らと共に居合せた約六〇名の分会組合員に引揚げを指図し、太繩課長の制止に対し「何を。生意気言うな。文句があつたらお前らだけで勝手に仕事をしろ。」と放言し、ストライキの通告もせず大挙して現業所を引払つて職場を放棄した。更に右控訴人らは同日午前八時三〇分頃から手分けをしてすでに沿岸倉庫等および海上において就労中の分会組合員に対し作業の放棄を指令して各職場から引揚げさせた上、右の経過を分会長である控訴人有本(同控訴人は同日特別休暇のため出勤していなかつた)および全港湾名古屋支部に報告した。
(5) 右の報告を受けた全港湾名古屋支部執行委員長は急拠執行委員を招集して同日午後二時頃執行委員会を開催し、同委員会の決議に基づき、全検分会に対し翌一五日始業時までの就労拒否を指令した。
(6) 右の結果、一四日就労拒否または職場放棄をした分会員は九四名に及び、内主席検数員は三〇名、ハッチ検数員は六四名であつた。被控訴人は分会員が現業所を引揚げるや直ちに管理職者(日曜日のため在宅していた者もいた)を呼び集め主席検数員として各船舶および倉庫に派遣したが、数名の不足を埋めえず、ために検数をしない船舶もあつた。また被控訴人は不足したハッチ検数員の内一三名は前記ダブリ検数の依頼により急場をしのいだが、その余の手当をなしえなかつたため検数作業は著しく混乱し、検数を放棄した船舶は多数に及び、また倉庫等陸上の検数は得意先の従業員に依頼して形式上検数を済ませる等、被控訴人の同日の職務は著しく阻害されたのみならず、被控訴人は依頼主から強硬な抗議を受けて信用を失なつた。
(二) <証拠判断につき省略>
(三) およそ労働争議行為は労働組合と使用者との間の団体交渉が行詰つたときに、これを打開し自己の主張を有利に展開させるために許される補充的な手段であり、労働組合がなんら要求もせず団体交渉も申し入れず突如争議行為を行なう如きは、たとえ上部団体の指令に基づき、かつあらかじめ組合員によるスト権確立のための投票がなされている場合であつても、信義誠実の原則に反し争議権の濫用であつて、正当な争議行為と認めることはできないと解すべきである。前記就労拒否および職場放棄は前記認定のとおり控訴人藤戸の遅刻に端を発し、未だ無欠と認定されていないのに無欠の認定をしたとしてその理由を執拗に問責した挙句、居合せた組合役員らが意を通じて突如組合員に対し就労拒否をあおり、これを指揮したものであつて、しかも事前に遅刻と欠勤の関係につき分会が被控訴人と団体交渉をしたことは一度もなかつたのであるから、かかる一斉就労拒否および職場放棄は争議権を濫用した違法な集団行動であつて、これをあおり、指揮した控訴人有本を除くその余の控訴人らは被控訴人に対しその責任を免れることができないと言うべきである。
(四) 集団的労働行為につき就業規則を適用すべきでない旨の控訴人らの主張が理由のないことは、前記時間外就労拒否につき判断したとおりである。
五、控訴人らの責任等について
(一) 控訴人有本について
(1) 以上認定したとおり、同控訴人が全検分会の分会長として本件分会執行委員会を招集したことは違法ではなく、また同控訴人は本件時間外就労拒否の決議から実行に至るまでの各段階ならびに本件一斉就労拒否および職場放棄の発端から職場放棄に至る各段階にすべて欠席し、一三日は特別休暇のため自己の時間外就労を拒否したこともなく、他に同控訴人が右各争議行為を企画・指導した事実を認めるに足る疏明はないから、同控訴人に対する本件解雇はその前提事実を欠き、理由がないというべきである。
もつとも前記疏甲第二〇号証によれば同控訴人は全港湾名古屋支部の常任執行委員を兼ねていたことを一応認めうるから、同控訴人が前記一一月一三日の同支部の時間外就労拒否指令および同月一四日のストライキ指令に各参画したことを推認しうるが、右一三日の行為は本件解雇理由とされていないものであり、また一四日の争議行為に参画した分会員らは海上勤務者に職場を放棄させた(前掲各疏明によれば、当日右分会役員らはボートをチャーターして各船舶を廻り、就労中の分会員をボートに乗せて引揚げたことが一応認められる)時点においてすでに二四時間ストをきめていたと推認され、支部のスト指令はこれに事後承認を与える形式のものであつたと認められるから、同控訴人が右指令の決議に参画したとしてもそのため特に被控訴人の職務阻害の程度が増大したものとは認め難い。
(2) したがつて同控訴人はなお被控訴人の従業員たる地位を保有するものであるところ、同控訴人の昭和四一年一月当時の平均賃金月額が金五万〇〇七〇円であることは当事者間に争いがなく、右賃金の毎月の支払期が二八日であることは被控訴人の明らかに争わないところであり、被控訴人が同年一月八日以降右賃金を支払つたことについては主張も疏明もない。そして原審における控訴人白井治良本人尋問の結果により成立を認めうる疏甲第七号証および弁論の全趣旨によれば、本件仮処分決定のなされた昭和四一年三月一一日当時において控訴人有本の右従業員たる地位を保全しかつ同年一月八日以降毎月右支払期に金四万円に限り仮に支払を受ける必要があつたこと、ならびに右の必要性は、現在も継続していることを一応認めることができる。
(二) その余の控訴人らについて
(1) <証拠>によれば被控訴人の就業規則第三九条本文は「従業員が下記の各号の一に該当する場合は、三〇日前に予告するか又は平均賃金の三〇日分以上を支給して即時解雇する。」と定め、同条第五号は「協会に対し非協力的な言動、画策をなし協会業務の正常な運営を妨げ、又は妨げんとしたとき」と規定していることが一応明らかであるところ、右控訴人らの前記三、四、において認定した諸行為は右条項に該当することが明らかであり、また<証拠>によれば、被控訴人は同控訴人らに対する本件各解雇通告書に各平均賃金三〇日分の予告手当額を記載し、これを直ちに受取られたいと催告したが、右控訴人らがその受領を拒絶したため、昭和四一年一月一四日右各予告手当を弁済供託したことが一応明らかである。
六、本件解雇の不当労働行為性について
(一) 控訴人らは本件解雇は被控訴人が全検分会の組織破壊を目的としてなした不当労働行為である旨主張するので、以下本判決事実摘示中控訴代理人主張の(六)に記載した各頭書記号の順序に従つて判断する。
(二) 右(1)の主張について
控訴人ら主張の刑事事件が被控訴人に対する争議中に発生したことを認めるに足る疏明はなく、また右事件が本件解雇に影響を与えたことを認めるに足る疏明もない。
<証拠>によれば被控訴人名古屋支部長は昭和四〇年一月中旬頃従業員寮に入寮中の従業員のうち被控訴人に対し積極的に批判的態度を示し寮舎を毀損する等の行動に出た者の父兄に対し、その挙動を報告し共産党を非難し再考を促すよう求めた書簡を郵送したことを一応認めうるが、右書簡によつても被控訴人が分会からの脱退を強要し分会員を差別扱いしたことは認められず、また本件全疏明によつても控訴人らが共産党に属することを認めえない。また<証拠>によれば昭和三九年から昭和四〇年にかけて全検分会から一〇〇名以上の者が脱退したことを一応認めうるが、<証拠>によれば右期間中分会は激しい争議行為を反覆遂行し、ために各組合員は就業規則および賃金協定に基づき相当額に及ぶ賃金カットを受けたことが一応認められることを勘案するときは、疏甲第六号証および右各本人尋問の結果中被控訴人の職制が分会組合員に脱退を強要した旨、および右の脱退が職制の強要に因るものである旨の各記載・供述はにわかに措置し難い。
次に<証拠>および当裁判所に顕著な事実を総合すると、被控訴人は昭和四〇年四月から同年九日までの間に合計六名の分会員を解雇したが、内一名は勤務態度不良および店童(給仕)としての雇傭関係の終了を理由とするものであり、他の一名は異常に欠勤の多いことを理由とするものであり、その余の四名は業務妨害、配置命令拒否等を理由とするものであり、右四名は解雇権濫用および不当労働行為を理由として右各解雇の無効を主張し名古屋地方裁判所に仮処分を申請したが、右一名は申請を取下げ、他の三名に対しては申請却下の判決がなされたことが認められ、結局被控訴人が不当解雇を反覆した旨の控訴人らの主張事実は疏明がないことに帰着する。
(三) (2)の本文前段について本件全疏明によつても全検分会が全港湾名古屋支部の中心的存在であつたことを認めえない。<証拠>によれば昭和四〇年度において同支部の組合三役中全検分会から選出されていた者は副執行委員長一名のみであつたことが一応明らかである。
(四) (2)の本文後段および(イ)について
(1) <証拠>によれば、次の事実が一応認められる。
(イ) 被控訴人名古屋支部は昭和三九年度に至り能率向上を主目的とする業務部門機構の改革を計画し、同年一二月一六日からこれを全面的に実施し、控訴人有本、同渡辺ほか一名に対し右機構に基づく係長の辞令を交付したところ、右三名がその業務を拒否したので、懲戒処分として右三名を降格の処分に付した。
(ロ) 右三名は、右新機構上係長に対し主席検数員以下の作業員の配置を定めることが命ぜられている点を捉え、かかる業務命令は右三名を管理職者とし組合員たる地位を奪うものであるから不当労働行為であつて無効であり、右懲戒処分も不当労働行為であつて無効である旨主張し、名古屋地方裁判所に対し右業務命令および懲戒処分等の効力を停止する仮処分を申請したが、同裁判所は昭和四〇年一〇月一八日右の各主張を排斥して申請却下の判決を言渡し、同判決は控訴不提起により確定した。
(2) <証拠>によれば、右三名は右業務命令の拒否後一箇月間「反省業務」として図書室勤務を命ぜられ、また右仮処分申請事件の継続中正規の業務を与えられなかつたことが一応認められるが、右懲戒処分が正当であり、かつ訴訟が係属中であつたことを考慮すれば、これらの処遇が不当であるとは認め難い。
(3) <証拠>によれば、控訴人渡辺は昭和四〇年一一月一四日は正規の検数作業員として配置を命じられていたことが一応認められる。
(五) (2)の(ロ)について
(1) <証拠>によつても沿岸作業には管理職者が少なく、海上作業には管理職者が比較的多いことを認めうるにすぎないから、沿岸作業から海上作業へ配置替えすることが差別待遇となるとは認められない。
(2) また<証拠>によれば昭和四〇年一二月頃沿岸作業中の一部分会員が上司から脱退の勧告を受けたことを一応認めうるが、右勧告が脅迫的なものであつたとは認め難い。
(六) (2)の(ハ)について
(1) 海上検数は船舶の荷役と同時に行なわれるものであり、特に船舶が常時出入する名古屋港においては予期外の時間外就労を必要とすることは十分考えられるところであるから、時間外就労拒否争議の決定後に被控訴人の右争議と同一日時に多数の者に時間外就労を命じなければならないことはありうるであろう。その必要がないのに被控訴人がスト破りの目的で業務命令を発したことを認めるに足る疏明はない。
(2) チェック・オフは本来労働組合が自ら組合員から徴収すべき組合費を使用者が代つて取立てるのであるから、いわば恩恵的措置であり、これを中止することが組合組織を破壊することに通ずるとは考えられない。
(3) 前記認定のとおり、被控訴人と全検分会との間には昭和四〇年度賃金協定に伴い名古屋支部細目協定(疏甲第二八号証)が締結されている。
その他本件全疏明によつても被控訴人が全検分会と全日検労組名古屋とを著しく差別して待遇したことを認めえない。
(七) (3)について
前掲各疏明によれば控訴人らはいずれも組合役員歴を有することを一応認めうるが、全検分会に控訴人ら以外に人材がなく、したがつて控訴人らが被控訴人の従業員たる地位を失えば分会が徹底的に弱体化すること、および被控訴人がこれらの事実を知り、かつかかる結果の発生を期待して本件解雇処分をしたことを認めるに足る疏明はない。
(八) 以上判断したところを総合しても、本件解雇が全検分会の組織を破壊する目的でなされたものと認めることはできず、また控訴人有本を除くその余の控訴人らに対する本件各解雇が同控訴人らの正当な組合活動を理由とする不当労働行為に該らないことは、前記三、および四、の各項において認定・判断したところにより、おのずから明らかである。
七、控訴人らのその余の主張について
本件解雇に至るまでの実情、本件各行動の経緯、およびこれに因り被控訴人の業務が阻害された程度は、いずれも上記認定のとおりであり、右いずれの点からみても本件解雇(控訴人有本に対するものを除く)は相当であるということができる。特に本件一一月一四日の行動のように未だ無欠扱いと認定されていないのに無欠扱いにされたものときめつけ、係長の説明に耳も藉さず上司らを罵倒して事務所を混乱に陥し入れ、団体交渉もせぬまゝ組合員を指揮して就労拒否・職場放棄をさせる如きは常識上信じ難いほどのことであり、かゝる秩序破壊者を解雇することは企業防衛上まことにやむをえないものというべく、控訴人らの主張するような解雇権の濫用はとうてい認め難いところである。
八、結論
してみると控訴人らの本件仮処分申請中控訴人有本清の申請は前記認定の限度において理由があり、本件仮処分決定中同控訴人の申請を右の限度で認容した部分はこれを認可すべきであり、原判決中これを取消して同控訴人の申請を却下した部分は失当であるが、本件仮処分申請中その余の控訴人らの申請はいずれも理由がないからこれを却下すべきであり、原判決中右と結論を同じくし本件仮処分決定のうち同控訴人らに関する部分を取り消して同控訴人らの申請を却下した部分は結局相当である。
よつて、原判決中控訴人有本清に対する部分を取り消して本件仮処分決定中同控訴人の申請を一部認容した部分を認可し、その余の控訴人らの控訴はこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条に従い、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
なお控訴人らは被控訴人の本件異議申立を却下するとの判決を求める旨申し立てるが、民事訴訟法上仮処分決定に対する異議申立は判決手続により審理した上原決定を取り消しまたは変更すべきことを求める訴訟上の申し立てであつて、訴の性質を有するものではないから、その却下を求める意味はない。したがつて本件控訴の趣旨は結局原判決を取り消し本件仮処分決定の認可を求めることにあるものと解する。よつて本判決主文においては特に控訴人らの右の申し立てに対する判断を示さないこととする。
(福島逸雄 広瀬友信 大和勇美)